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走るのに筋力って必要ないの???

今回は、為末さんがX(旧Twitter)でポストしていた内容が面白そうなのだったのでその内容についてです。
アスリート向けの内容かもしれませんが、趣味でランニングなどをやっている方にとっても有益かなと思いますので、是非読んでいただければと思います。

早速ですが、為末さんのポストがこちら。↓
是非リンク元の為末大学のYoutubeも見て欲しいのですが、
簡単に説明すると...
あくまでも歩行時の話ですが、腓腹筋やヒラメ筋という足関節まわりの筋腱複合体の長さは変わっている割に筋線維だけの長さをみてみるとあまり変わっていないことから、歩行時は筋肉が動いているというよりも腱の伸び縮みがメインで起こっていることからランニング時などの走動作に関しても似たようなことが起こっているのではないかという可能性があると話しています。

これに関しては、僕もこれまで勉強してきたことや陸上競技の選手のトレーニングを見てきたことからも直感的に納得のいく話だなぁと思って聞いていました。
走る際に足関節や膝関節を一定角度で固定し腱のバネをうまく活用して走ることで、省エネにもなりそれが長距離走の場合にはランニングエコノミーにもつながっているのだと感じます。
逆に僕のように筋トレは日常的にしていても走動作のスキルが足りないような走るということに関しての素人は足関節や膝関節をうまく固定することができずに効率の悪いバラバラなフォームになってしまいます。腱をうまく活用することができず、必要以上に筋線維が働いてしまうためエネルギー消費も激しく、大して走っていなくてもすぐに疲れてしまいます。

あくまでも、筋線維ではなく腱中心で動いているのは歩行時の話ですし、ランニングやスプリント時などスピードによっても変わってくる部分はあるかと思いますが、少なからず歩行時と似たような現象が起こっていても不思議ではないと感じます。

ただ、ここで一つ注意して欲しいのが、
「だったら走る時って、筋肉・筋力、いらなくね???」
ってなることです。

ここまでの流れからすると、当然そのような答えに行き着いてしまうのもわからなくはないですが、それは違うと考えます。
筋肉を動かさない=筋肉が必要ない
ではありません。

固めるためにも筋力は必要です。これはXのなかでも為末さんもおっしゃっていますね。
そしてもう一点、動画のなかで「股関節の伸展」というワードが出てきています。
地面を捉える瞬間、足関節や膝関節をある一定角度で固定するのは大臀筋やハムストリングスで発揮した力(股関節の伸展)を最大限に活かすためでもあると考えられます。
逆に言うと、いくら足関節や膝関節が固定されることで上手く腱で地面を捉えられていたとしてもそもそもの発揮されている力が弱ければ強い推進力を得ることはできません。

これまでの経験から、特にランナーで多いのはふくらはぎの筋肉が発達しているケースです。
これは筋線維はあまり動かず、腱で走っているという仮説とは矛盾した現象のように思えます。
しかし、いくら腱の動きがメインだったとしても歩行時でもそうであるように腓腹筋やヒラメ筋の活動がゼロなわけではないので、そういったふくらはぎの筋肉が発達することはなんらおかしいことではありません。
しかし、気をつけたいのは"そこだけ"発達しているということです。
大臀筋やハムストリングスの筋肉はぺったりしているのに、ふくらはぎの筋肉はパンパンにはっているのはあまり良くないなぁと感じます。
結局のところ、大臀筋やハムストリングスの筋力が不足しており止むを得ず末端の筋肉で蹴って走っているようになってしまうと効率は悪く、足首やふくらはぎの筋肉だけがオーバーワークになってしまい故障に繋がる可能性が高くなるように思えます。
そもそも腓腹筋は腱の割合が大きく、筋肉の肥大応答は小さいとされているにもかかわらず、結構肥大しているというのはやはり使い方を考えたほうがいいように思えます。

またふくらはぎが大きくなるような末端部分の形態変化はバイオメカ二クスの観点から足の振りにくさに悪影響を与えますが、より中心部分に近い大臀筋などの形態変化は悪影響をあたえず動きが鈍くなるようなことはないとされています。(※)
下肢はTop Heavy,Bottom Lightがバイオメカ二クスの観点からは好ましいのですが、特に持久系ランナーでは逆になっていることが多いように思えます。

動画の中でも、カールルイスはストライドが広く、膝をかなり伸ばして地面に接地していたが、今はその手前で接地することが多い。その原因としてそこまで大きな膝関節や股関節伸展をだしていると筋肉の収縮スピードにピッチが追いつかないことが考えられる。というようなことを話していますが、これに関しては個人的にはよくわかりません...

これまでの陸上競技の背景や走り方の変化などはわかりませんが、
カールルイスのように股関節伸展を大きくできるということはつまり股関節伸展力が強い、大臀筋やハムストリングスが強いということだと思います。
なので、あくまでも個人的な見解ですが筋肉の収縮スピードが速いとストライドが短くなり、収縮スピードが遅いとストライドが大きくなるのではなく、筋力が強ければそれだけ大きなストライドでも走ることが可能になるのだと思いますし、逆に言うと強くなければそれだけ大きなストライドでは走れないということだと思います。

その選手の筋収縮スピード、下肢の長さ、スプリントやランニングテクニックなどの条件から、その選手に合った接地箇所、ストライドが決まってくると思うのですが、下肢筋力・パワーが強ければそれだけ大きなストライドをだしても効率が悪くならずしっかり前への推進力に繋げられるのだと考えられます。
そういった点でもやはりカールルイスは異常だなと感じます....笑

だからこそ、陸上選手には長距離でもスプリントでも例外なく強い股関節伸展力を養うためにも積極的にウェイトトレーニングを取り入れてほしいと個人的にも思っています。
技術練習だけではそういった筋力やパワーは間違いなく身につきません。
技術練習で足首を固定して、腱で上手く接地でき効率の良いフォームを形成できていたとしてもそもそもの生み出している力が弱ければ十分とは言えません。

色々書きましたが、まとめると
・おそらく走動作においても足首周りの筋肉の伸び縮みは小さく、腱がよく働いている。
・だからといって筋肉・筋力が不必要なわけではない
・末端が大きくなる形態変化はバイオメカ二クスの観点からパフォーマンスを阻害する可能性がある
・そもそもの大きな力を生み出すために大臀筋・ハムストリングスを中心にトレーニングを積極的にしましょう
ということです。

今回はあくまでも仮説をもとに書きました。
ランニングやスプリントなどによって状況はもちろん変わることも考えられますし、一概に何かを断定するようなことは言えませんが、やはりスポーツをやっているのであれば基本的には筋力が弱いよりも強いほうが色んな可能性がひらけるのは間違いないと思います。
そもそものところが弱いままで、他をどうこねくり回そうが限界は知れています。
筋力を養うことは可能性をひらける土台です!



《参考文献》
The Lower Limbs of Sprinters Have Larger Relative Mass But Not Larger Normalized Moment of Inertia than Controls


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最近ふと思ったのですが、同年代の方にトレーニングを教える機会が増えてきて嬉しいです。
これは20代の頃にはなかったこと。
もちろんどの世代の方もウェルカムなんですが、なんか同年代は無駄に嬉しいです...
これから頑張って一緒に歳とろうぜ!って感じで。笑



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