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トレーニングにおいて負荷を上げない人が見落としている事

長くトレーニングを教える仕事をしていると、一定数重量を上げたがらない人が出てきます。
重量を上げたがらない人ってどういうこと?と思われるかもしれませんが、例えばスクワットやベンチプレスである重さで実施するには余裕が出てきたのでもう少し重量上げて実施してみましょうか?といった場合に、「いや、このくらいでいい」という人です。
少し不安を感じながらも上げてチャレンジする人もいれば、しない人もいます。ちなみに一般の方でもアスリートでもみられます。

当ジムとしては、ある程度トレーニング経験を積んでからは重量設定は本人で決めてやってもらっています。(もちろん、上げた方がいい下げた方がいいなどのアドバイスもしますし、%1RMにのっとってその回数に対しての目安となる負荷設定も示しています。)

私が毎回全ての重量を指定することもできなくはないですが、それではその方の考えるクセをつけられませんし経験も積ませられませんので、アドバイスなどはしながらも最終判断は本人に任せています。
それで、結果として重量が伸びなかったらそれはそれでいい経験です。
逆に言われたことをそのまま実施した結果、伸びたとしてもなぜ伸びたのかわかっていなかったり自分自身で考えて重量設定するクセがついていなければいい経験を積めたとは言えません。

一通り必要なアドバイスをしながらも、それでも重量を上げない人に対して無理に上げさせるようなことはしませんし、そういうことをしたところでその方はジムに来なくなりトレーニングもやめてしまう可能性が高いです。
それだったら、本人が決めた重量で続けてもらえればいいと考えています。
一般の方であれば、例えトレーニングの効果が薄く結果が伸びなくてもトレーニングをやめてしまって身体活動が減ることに比べれば大した問題ではありません。(アスリートであるならば結構問題なので、効果の薄いトレーニングをするくあらいであれば他のことに時間や労力をまわすべきでしょう。)

大した問題ではないとは言いましたが、それでもやはり重量を上げずに常に余裕を持った状態でトレーニングすることで起こるデメリットもちゃんと存在するのでそこはしっかり抑えておくべきです。

まず1つめは、前から幾度となく登場している重要なトレーニングの原則である、「漸進性過負荷の原則」を満たしていない点です。
トレーニングの効果(筋肥大や筋力向上などの適応)を得るには負荷を徐々に上げていく必要があり、慣れている負荷でやっていても効果は出ませんよ。というものです。
ちなみにこの負荷は重さに限ったことではありません。トレーニングを実施する時間や頻度もそうですし、回数やセット数だったり、エクササイズ種目の難易度など様々なものがあります。重要なことはその人にとって新しい刺激を与えること。そしてその適応を引き起こすことです。
つまり、トレーニングは決まりきった重さ・回数・セット数・エクササイズなどを毎回やるものではなく、その辺を変化させながら実施する必要があるということです。
もちろん急激な変化は適応がおいつかないため怪我などの可能性が増えますので注意が必要です。
反復練習なしには適応しませんが、様々なバリエーションもその場・その状況において必要ということです。
ストレスや適応に関してはコチラも確認を

重要なトレーニングの原則を満たしていないということはつまり、それはトレーニングではないとも言えます。
多くの人が健康やスポーツパフォーマンスの向上のためにトレーニングを始め、筋力アップをはじめ様々な体力要素を向上させたいという目的があるかと思いますが、それらのためのトレーニングをするのであればやはりある程度の負荷を身体にかける必要があるということですし、そうでなければトレーニングではなくただの運動の範疇におさまっているということになります。

「いや、でも自分はアスリートでもないし常に向上を目指すのは荷が重いし、トレーニングじゃないって言われるかもしれないけど最低限の筋力維持ができればいいから心地いいくらいの運動でやっぱりいいよ。」
って方もいらっしゃるかと思います。
その考えについて、全く否定もしませんし、運動でもなんでも身体を動かすのは素晴らしいことだと思っていますのでそれはそれで大アリな考え方でもあるかと思います。
身体を動かすことには筋力アップなどの身体的・生理的なもの以外にも気分転換になったりと精神面でもポジティブな効果もありますからね。

しかし、その考え方で本当にいいのかは以下を読んでから判断してからでも遅くありません。
↓↓↓

2つめのデメリットは、余裕のある負荷や、心地いいくらいの負荷では使われない筋線維があるという点です。
人間の筋線維には主に2種類あります。
・遅筋線維

・速筋線維
です。
簡単に説明すると、
遅筋線維というのは歩くときやジョギングするときなどの軽い負荷の時に使われる筋線維です。
ウェイトトレーニングを余裕のある負荷で実施する場合もこの遅筋線維が主に使われます。
それに対して、速筋線維というのは高負荷の時にしか使われない筋線維です。

トレーニングを実施する際に抑えておきたい重要な原理として「サイズの原理」というものがあります。
これまた簡単に説明しますが、
一つの運動神経が支配している筋線維の集団のことを運動単位といいます。この運動単位が筋肉を動かす時に使われます。
そしてこの運動単位はサイズが小さいものから大きいものまであります。
そして筋肉の活動には順序があり、運動単位は小さいものから順番に使われていきます。
負荷の軽い活動であれば、小さい運動単位だけ使われて、大きい運動単位は使われずに休んでいます。
(サッカーなどで弱いチームとやるときは、上手い選手を温存したりしますよね。そんなイメージです。)

逆に負荷が強い活動のときには大きな運動単位が使われます。
負荷が強くなるにつれて、サイズの小さい運動単位(筋線維)からサイズの大きい運動単位(筋線維)が順番に使われていくというのが「サイズの原理」です。
で、もうお気づきかもしれませんがこのサイズの大きい運動単位に含まれている筋線維が速筋線維です。
つまり、余裕のある負荷では速筋線維は刺激されずにお休みしているわけです。

「ん?何が悪いの??遅筋線維も筋肉でしょ??遅筋線維がつかわれているなら問題ないじゃん。ある程度の筋力維持には十分な運動にはなってるでしょ?」
って思いますよね?
まぁまぁ、続きを聞いてください。

遅筋線維ももちろん筋肉ではありますが、遅筋線維は太くならず遅筋線維だけを鍛えることでの筋力向上は考えづらいです。
遅筋線維と速筋線維にはそれぞれの役割があり、筋肉が太くなったり、それによって強い力を発揮するのは速筋線維です。
遅筋線維は強い筋力を発揮するというよりも、持久系の役割を担っています。

高重量を数回実施するような強い筋力が必要とされるときは速筋線維、軽い重量を何度も繰り返すような場合は遅筋線維が働くというわけですね。
この辺は自分の経験でもありまして、一時期%1RMが高い高強度のウェイトトレーニングをしていない期間があったのですがやっぱり筋力は全然伸びませんでしたね...

そして、大体の予想はつくかと思いますが、使われない筋線維は弱くなります。つまり大きな筋力を発揮できるはずの速筋線維も刺激を与えられなければ細く弱くなります。
上手い選手もずっとベンチで温存し続けて使ってあげなければそりゃ弱くなりますよね...

「でも!DEMO!!!遅筋線維だけでも鍛えることができていれば軽い重量だとしても繰り返す能力は身につくわけだし、軽いとは言っても流石に日常生活以上の強度くらいには耐えられるはずだから健康のためのある程度の筋力維持が目標ならばやっぱりわざわざ強度をあげて速筋線維とやらまで鍛える必要なくなくなくなくない!?!?!?!?!」

さらに続きがあります。
遅筋線維は加齢に伴い筋活動が低下したときにおこりやすい廃用性萎縮の影響を受けやすいと言われています。
人間はどうしても歳をとる生き物ですし、鍛えていたとしても加齢による筋力の低下は防げません。
しかし、そんな中で長く速筋線維に刺激がいっていないような場合はその低下を余計に加速させる可能性が考えられるわけです。
廃用性萎縮の影響で遅筋線維が弱くなりやすいとしても速筋線維も日頃から鍛えられていればリスク分散になりますよね。
また、速筋線維を長く使わないことによりサルコペニアも促進させる可能性もあります。
速筋線維を鍛えていないことで両方の筋線維の機能低下が加速度的に起こり得るというリスクが考えられます。
以上のようなことからも、やはり定期的に速筋線維に対するアプローチ、つまり強度が高めの負荷でのトレーニングも必要と言えます。

「そんなこと言ったって、速筋線維を鍛えても歳はとるし徐々に筋力低下するのは防げないだろ!?」
もちろんです。
しかし、低下の速度を緩やかにすることはできるはずで、それによって健康寿命が伸び、少しでも長く自分自身で様々なことができる身体になれる可能性が高くなるのであればやはり速筋線維も鍛えない手はないかなと思います。

先ほども書いたように、重たい重量や高強度な負荷は避けて余裕のある程度の運動でいいという考え方はアリです。
それでも全くトレーニングも運動もしないよりは100万倍いいです!!!
しかし、その考えに至る前に今回のようなリスクもしっかり抑えておくべきだとは思います。

確かに高強度な負荷はちょっと怖いですよね。
一般の方に限らずアスリートであれば尚更、どこか痛めてしまって練習や試合に影響がでるんじゃないか?と不安になったりもしますよね。
その気持ちは大いに理解できます。
さらに誤解を恐れずに言えば、何かしらの身体活動をしていれば「絶対怪我しません!」とは言い切れません。
仮に適切なトレーニングであったとしても怪我してしまう可能性ももちろんあります。
しかし、アスリートの場合であればトレーニングをしないことで傷害発生率が3倍に跳ね上がるというデータもあります。
全く怪我をせずに身体活動をしたい、トレーニングをしたいという考えは、全く傷つかずに人生を歩んでいきたいと言っているのと同じくらい無謀で消極的です。

何かをやることで起こるリスクも当然ありますが、何かをやらないで起こるリスクも当然あります。
やることで起こり得るメリット・デメリット、そしてやらないことで起こり得るメリット・デメリットをちゃんと正しく理解・把握した上で天秤にかけ選択できればいいと思います。
今回の論点で言えば、あまり知られていないかもしれないけどやらないことで起こり得るデメリットがあり、そのデメリットはやることで防げるということ。
そしてやることで起こり得るデメリットを極力少なくするために我々のような職業の者がいると理解してもらえると嬉しいです。

高負荷は最初はちょっと不安に感じますが、ちゃんと段階踏んで準備していけばそんなに心配いりません。
先日書いたように、潰れた時の準備をしっかりしておくこともそのうちの一つですね。
トレーニングにおいても、"失敗したことがある"は大きな財産になる

せっかくトレーニングを始めたのなら、効率の悪い可能性の限られたものを続けるよりももう一歩勇気をだしてより効果的なものに時間も労力も費やせた方が個人的にはいいかなと思います。

今回は、負荷を上げないことで起こり得るリスク・デメリットについて書きました。
トレーニングをしたことがない方や、初心者の方では重たい重量を扱うような高強度の負荷に対するイメージは良くない場合が多いのではないかなと感じております。
怪我をするイメージであったり、なんだか逆に身体に悪そうな感じ...
しかし、高強度な負荷でやることにはちゃんとした理由があるということを知ってください。

トレーニングもバランスが大事です。
負荷を上げないのも良くないですし、ずっと高負荷でやり続けることももちろん良くありません。
基本心地よいところでやって、たまにがっつり頑張る。
基本頑張って、たまに緩やかにやる。
自分の目的や性格に合わせて、その辺のさじ加減をうまく調整できるといいですよね!

《参考資料》
レジスタンストレーニング「漸進性過負荷の原則」
サルコペニアのメカニズムとその予防・改善のためのトレーニング
The effectiveness of exercise interventions to prevent sports injuries: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials


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さて、バーっと走ってこよう。
高強度のいいところは時間かからないところ。笑

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